第一章
「チーム南信、優勝しました!
機材は全員オリンパスです!
TCC、面白いっすよ!」
2018年9月、長野出張から戻った担当者が興奮気味に職場メンバーに報告する声がフロアに響き渡りました。このときは「来年はTCC観戦に行こう」と思いましたが、半年後には「観戦」が「出場」に変わっていました。
フォトマッチ チームチャンピオンズカップ(通称TCC)は、「風景写真」誌と「フォトコン」誌が主催する、風景写真の全日本選手権とも言える大会で、2017年から茅野市民館で行われています。
1チーム5名で構成されたチームが全国から集まり、風景写真の作品を撮影して、トーナメント形式でチーム対抗で対選します(TCCでは「対戦」ではなく「対選」と書きます)。
「イコールコンディション」「リアルタイム」がテーマ。1日目午後と2日目早朝、長野県内で撮影した中から一人5点の作品を提出して対選に臨むわけですが、同じ条件なので、撮影技術だけでなく、場所選び、時間配分の他、対選時に出す作品の順番によって勝敗が左右されることがあり、チームワークや戦術が重要になります。
TCCの存在はもちろん知っていました。第1回のTCC2017のときは、知人のSNSを見て「へぇ〜、プロ写真家チームが一回選負け?!」という程度だったのですが、TCC2018のときはプロモーションを担当しており、「自然風景に力を入れましょう」と提案していたものの、「風景写真」について、私自身が勉強不足でした。「風景写真を撮っている写真愛好家の方々の気持ちを知りたい」と思っていたこともあり、「来年は観戦に行こう」と心に決めました。
その後、とある懇親会で、『風景写真』・石川 薫編集長、『フォトコン』・藤森邦晃編集長とご一緒する機会があり、その場で「観戦」から「出場」に変わりました(笑)。「来年は観戦に行きます」と伝えて話がはずんだのは覚えていますが、どういう経緯で「出場」という話になったのかは覚えていません。周囲の方々から「オリンパスさんならいけるよ!」と背中を押されたような記憶はありますが、真面目な性格なので、酒席の話を間に受けてしまったわけです(笑)。
チーム名はシンプルに「チームオリンパス」。メンバーは、当時、私が勤めていたオリンパスプラザ東京の5名。社内の写真教室があり、小笠原さん/諸岡さんは初代校長と二代目校長、私は初期の講師を担当したことがあり、3名とも一般社団法人
日本自然科学写真協会(SSP)会員。丸山さん/塚本さんはオリンパスギャラリー/クリエイティブウォールを担当していて、ふだんから「写真を観る」機会が多い2人。これだけ聞くと「強力なメンバー」と思われるかもしれませんが、誰一人として「風景写真」を意識して撮ったことのないメンバーでした。
とりあえず(という表現がぴったりと思えるくらい危機感がない状態でした…笑)、予選エントリーの作品を各自選んでプリントアウトして封筒に入れて申し込みました。みんなで作品を選ぶようなことをすることなく、どんな作品を出したのかを知っているのはキャプテンの私だけでした。
2019年3月23日(土)、中野のケンコー・トキナーさんの会議室で行なわれた東日本予選に足を運びました。入り口を入ろうとすると、いきなりT原さんがお出迎え。「田中さん、TCC…ですか?」と不思議そうなT原さん。
さらに奥に入ると予選受付にチーム関東レヴォーグの皆様がおられて、「田中さん、な、なんでここに?」と、キャプテン・中井憲吾さんが笑顔(でしたが目が笑っていない)で鋭い突っ込みが…。そう、この日までチームオリンパスがエントリーしていることは誰にも言っていなかったので、私が予選会場に現れて、皆様驚かれたようです。
予選会場はピリピリしたムードでした。私の横に座られているチーム関東レヴォーグ・中井憲吾さんの表情をチラッと見ると………
「こ、恐い…」
より一層緊張感が増しました。
ケンコー・トキナー・T原さんの挨拶の後、予選が始まりました。スクリーンに映されたチームは8チーム。緊張感が高まります。申し込んだ封筒は封を開けられずに会場に持ち込まれてその場で開封、ランダムに作品が並べられました。つまり、どのチームの誰が撮影したかわからない状態です。石川編集長と藤森編集長が一枚一枚、点数を付けていきます。お二人各5点×2=10点満点の採点で、両編集長は淡々と作品プリントの裏に点を記入した付箋を貼っていきます。
すべての採点が終わった後、萩原麻衣さんが各作品の裏面に書かれていたチーム名と得点を読み上げます。「チームオリンパス、5点!」いきなり最下位に転落しました。その後、7点が続きましたが、終始圏外に位置して浮上できずにいました。最後に開けられたのは、たまたま私の作品。「7点!」と読み上げられましたが、この時点であきらめていたので、スクリーンを見ておらず、「あー、会社の名前付けて予選落ち…実力かな…」と思っていました。
ところが…
横におられたチーム南信・佐藤素子さんが、
「やったー! 田中さん、勝ったよ!」
と歓喜の声で教えて下さいました。
5人の平均は「6.6点」。チームこまくさと同点でしたが、標準偏差で我々が上回り(バラツキが少なかった)、東日本予選6位で決勝進出が決まりました。
※撮影:萩原史郎さん
会場を出てメンバーに報告したところ、みんなの反応は予選落ちを覚悟していたのか、
「なんと! これは頑張らねば(^^)」
「もう逃げられませんね…足引っ張らないよう修行しなくてはです」
という感じで、嬉しさ半分、不安半分という印象でした。
勢いで応募したものの、大きな不安がありました。メンバー全員、写真に関わる仕事をしており、セミナー等で講師を務める立場でもあり、それなりにキャリアは豊富なのですが、誰も「風景写真を撮りに行く」ということをしたことがなかったのです。
一般社団法人 日本自然科学写真協会(SSP)会員である小笠原さん/諸岡さんは「星景写真」、私は「昆虫写真」専門です。
小笠原さんは「風景写真とは?」とネット検索されたとか…(笑)。
急に「風景を撮れ!」と言われても撮れないので、私は「自分らしい風景=小さな世界の風景」で行くことに決めていました。
予選通過が決まってすぐに、チーム関東レヴォーグのキャプテン・中井憲吾さんから、「レヴォーグメンバーと飲み会やりましょう。TCCについてお教えしますよ」とお誘いをいただきました。TCCのことだけでなく、風景写真界のこと等、いろいろ親切に教えていただきましたが、時折、「小笠原さんはどんな写真を撮るんですか?」「丸山さんってどんな人ですか?」と探りが入ります(笑)。
「そうか…もう心理戦が始まっているんだ」
と思いましたが、皆さんとの飲み会はとても楽しく、大いに盛り上がって、健闘を誓い合いました。
中井さんからいろいろ教えていただいたことでお尻に火がついて、メンバーに伝えました。
「ちゃんと練習しましょう!」
「今ごろ言うな」という感じですね(笑)。
過去の対選動画を見る等、TCCについて勉強を始めたのですが、見れば見るほど、レベルの高さにプレッシャーが増すばかり。決勝トーナメントに向けて「練習」することにしました。
とはいえ、オリンパスプラザ東京はシフト勤務のため、5人揃う日がなかなかなくて、練習を行なったのは、6月19日と8月28日の2回だけ。
練習1回目は6月19日、新宿御苑。晴天でした。3時間で一人作品を5点提出することにして、新宿門で解散。各自、それぞれの視点で撮影しました。
5人全員で撮影した写真を見せ合って、「こういう写真はいけそうだ」「これはダメじゃない?」等、意見を出し合いました。その後は懇親会で盛り上がりました。
練習2回目は8月28日、野川公園。この日は大雨。「TCC当日が雨かもしれないのでやりましょう!」と言って決行したものの、傘以外の雨具を持ってきていなくて、すぐに戦意喪失。膝から下がずぶ濡れになり、撮影に集中できなくて、この練習の後、靴を買い換えました(笑)。そういえば、トンボ撮影では、ウエイダーを履いて水に入ることはあっても、雨の日に長時間撮影することはほとんどありません。
野川公園では、みんな苦戦して、懇親会に行く元気もなく敗北感を味わいましたが、TCC本番が大雨だったので、このときの経験は生きていたと思います。
その後、それぞれの仕事に忙殺されて、アッという間に本番前日の9月20日(金)。特急あずさで長野に向かいました。
第二章につづく
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